ホラー映画「ミッドサマー」が心底怖い秘密を解説!アスター監督のこだわりとは

公開前からSNSなどで大きな話題を呼び、2020年2月21日に満を持して公開された『ミッドサマー』。

『ヘレディタリー/継承』から強い恐怖や不快感、嫌悪感を味わわせてくれると評判のアリ・アスター監督がその才能をいかんなく発揮し、途中退場する人も続出したという今作。

SNSでは、「とにかく怖かった」「怖かったけど不思議な爽快感があった」「カップルが鑑賞後にケンカしてた」など様々な感想が流れています。

今回は、なぜ『ミッドサマー』はあれほど怖いのかを考察していきます。

 

ネタバレを含みますのでご注意ください!

 

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ホラー映画「ミッドサマー」あらすじのおさらい

破局寸前のカップル、ダニーとクリスチャン

ダニーは不慮の事故で家族を一度に全員亡くし、精神的に不安定に。

しばらく後、参加したパーティでクリスチャンが男友達だけで計画していたスウェーデン旅行がバレ、ダニーもつれていくことに。

スウェーデンからの留学生・ペレの故郷で90年に1度だけ開催される、9日間の夏至祭

太陽が沈まない白夜の村で、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のような光景。

しかし、その祭りはただの夏至祭ではなく、常軌を逸した凄惨なカルト的儀式だった

全てが白夜のまぶしいくらいに明るい日のもとで行われる、老人の投身自殺、薬物入りの飲み物、明るく穏やかな村人による目を覆うような殺戮。

そして、ダニーも徐々に村の狂気に飲み込まれていく

ホラー映画「ミッドサマー」が心底怖いのはなぜ?

ホルガの“ヤバさ”

スウェーデンの秘境“ホルガ”。

自然に囲まれ、現代社会とは切り離され、人々は笑顔で地上の楽園のような村。

しかし、そんな楽園のようなホルガでは、現代社会では受け入れられないような儀式が今も脈々と続いています

ダニー達同様、まずショックを受けるのがアッテストゥパン。

続いて、祖先の木に立ち小便をしたマークを襲う、“愚か者の皮剥ぎ”。

アッテストゥパンにショックを受けて村から出ようとしていたサイモンは、鶏小屋で“血の鷲”の生贄にされてしまいます。

 

SNSなどでもここまでの儀式の“ヤバさ”についての感想がたくさん聞けます。

最近のホラーでは派手なゴア描写をスクリーンいっぱいに大写しにすることは少なくなったようで、その新鮮さもあったのかもしれません。

 

しかし、ホルガの“ヤバさ”は血なまぐさい儀式だけではないのではないでしょうか。

むしろ、国によって法律も違うし考え方も大きく違うので、この凄惨な儀式も「まあそんなもんだよな」の範疇ですらあります。

 

ホルガの怖さ、気味の悪さは、凄惨な儀式だけではありません。

明るい日光と穏やかな自然の中での凄惨な儀式、という派手なショックで隠された、もっと深いところが本当の怖さという気がします。

村人全員が“善意”のもとに共同体の意思として、飛び降り損ねた老人を殺し、意図的に近親婚で障害を持った奇形児を作っている空恐ろしさもあります。

 

また、その怖さ。ヤバさのひとつとして、明かされていない謎が多いことがあげられます。

 

ペレが「両親は炎に焼かれて死んだ」と言っているから、ペレの両親は生贄に志願して死んだ?

去年までのメイクイーンはなんで写真しかないの?などなど……

 

そして、最大の謎と言っても過言ではない、「で、どこらへんが90年に一度なの?」という謎。

ペレがスマホで写真を見せてくれていることから、去年もあの夏至祭は開催されていたはず。

しかも、72歳になった老人が自殺をするなら、それは毎年行われるのでは?

村人だけで結婚していては血が濃くなるから外部の血を取り入れるのなら、90年はちょっと周期が長すぎない?など。

 

ホルガに残る謎が劇中でダニーが観ている幻覚と混じり合って、どこまでが本当で、どこからが嘘なのか、騙されてるのか、被害妄想なのか、わからなくなってくる。

ダニーの笑顔で締めくくられた作品ですが、語られていないこの先では、きっともっと悪いことが起こっている。

そんな不安感を、劇場を出た後まで続くくらいにまとわりつかせてくる。そこが本当の、ホルガの、『ミッドサマー』の“ヤバさ”なのではないでしょうか。

 

ダニーとクリスチャンの関係性の「微妙な不快感」

ダニーはパニック発作、その妹は(おそらくかなり症状の重い)双極性障害

辛い時は助け合うのが恋人、と考えていても、ずっと付き合うには重い、いわゆる“メンヘラ”がダニーです。

冒頭でのマーク達とクリスチャンの会話からしても、付き合いはじめから、そしてもしも妹が両親と心中しなかったとしてもダニーはクリスチャンに精神的に頼り切りだったでしょう。

クリスチャンのスウェーデン旅行の計画を知った時がいい例ではないでしょうか。

 

「旅行に行くのはいいけど先に言って欲しかった」

「悪かった」

「私の知らないところで旅行計画立てられてるの、どんな気持ちになると思う?」

「だから謝ってるじゃん」

「悪かったって言っただけじゃん!」

 

……と、他人事として見ると理解に苦しむけど気持ちはわからなくもない、という絶妙なメンヘラっぷり。

女性は共感を求めるもの、とはよく言いますが、ダニーのそれは特に顕著な感じがします。

また、現代社会では個人主義が重んじられる傾向にあるため、自分の感情を自分でコントロールできず恋人などに依存しすぎる人は疎まれる傾向にあります。

クリスチャンはダニーを重荷に感じていますが、ダニーも、自分のメンタルに理解を示してくれず迷惑そうな顔をするクリスチャンに気持ちは冷めていたのでしょう。

 

クリスチャンは、現代社会の象徴のような男。

重い彼女をストレスに感じながらも、別れることもせず、でも泣きながら電話してくるダニーに大きな溜息は吐いて見せる。

スウェーデン旅行がダニーにバレた後の、「ダニーを旅行に誘った。彼女は来ると言った。でも実際には来ない。俺が誘ったけど、君たちがダニーを誘おうと言い出したことにする。いいね?」とマーク達に口車を合わせさせるシーンなど、日本人かよ、とツッコミたくなるような見事な責任逃れっぷり。

そして結局ダニーはスウェーデン旅行に同行することになり、マークとジョシュはかなりあからさまに嫌そうな顔をするものの「君たちがダニーも誘おうって言ったことにする」とクリスチャンが言ったために来るなとも言えず、クリスチャンだけが、「仕方ないよね」という顔で苦笑いしている、という最悪な状況になってしまいます。

劇中では「別れて、もし後悔したら?」と一言で済ませていますが、おそらく、もし別れ話をすれば当然ダニーは取り乱し、絶対にこれ以上ないくらいに面倒くさいことになる、との思いで別れられずにいるのでしょう。

また、「ダニーが俺のこと頼ってくるから」と迷惑そうな顔をしながら、それを逃げ道にしてずるずると論文のテーマを決めずにいるクリスチャン。

ジョシュのように真剣に取り組むでもなく、マークのように論文のことなど考えずに遊ぶつもりでもない。

挙句の果てに、ジョシュのテーマを横取りしようとさえします。

なんとなく軸がなくて、なんとなく、周りに流されているような、そんな男です。

 

しかし、もう相手からの気持ちがないこともわかっているしこのまま付き合っていてもしょうがないとわかってはいるけど、別れる決断ができずべったり依存しているダニー。

ずっと重荷に感じているし正直迷惑だけど、はっきりと態度に出さずにそれとなくにおわせるだけのクリスチャン。

どちらに対しても、いやいや君たちそれでいいの?と言いたくなってしまいます。

もしどちらかにアドバイスできたとしても、彼らの友人と同じく「もう別れなよ!」としか言えないはず。

ですが、どちらの気持ちもなんとなくわかる。

わかるけど、この気持ちがなんとも言えず不快に感じることは確かです。

 

このリアリティも、この作品の怖さ、というより強い不快感の一端を担っているのではないでしょうか。

登場人物が、こちらの理解できる、共感できる感情を見せてくる。しかも、辛いことは確かだけど、おおっぴらに叫ぶと顰蹙を買うような絶妙な、共感したくないストレス。

殺人鬼に追われているとか、まわりにゾンビがうようよいるなどのホラーとはまったく違う、微妙な不快感が冒頭からずっと付きまといます。

 

結局、何が“怖い”のか?

ホルガで行われる儀式の派手な顔面破壊描写

村の掟に従い殺されていく旅行者、特にマークの“愚か者の皮剥ぎ”と、サイモンの“血の鷲”。

生きたまま焼かれる生贄たち。

 

これらの衝撃が目立ちますが、この作品の怖さはゴア表現ではないのではないでしょうか

ストーリー的にも、ホラーをよく観る方なら意外性はあまりない展開です。

 

では、何が怖いのか。

筆者は、アリ・アスター監督のこだわりによる、徹底的に煽られる不快感にあると考えます。

 

音楽、効果音、視覚効果、などなど……どれをとっても、最初からずっと、どこか怖い。何か不安。

 

うつ病などを経験した方によれば、うつ状態の時の音の感じ方、視界の見え方に非常に近い表現をしているそう。

劇場で途中退場した方の中には、うつ症状に悩まされている間のことがフラッシュバックして耐えられず途中退場した方もいるとか。

 

アリ・アスター監督のこだわり

雑誌、映画サイトなど、様々なところでアリ・アスター監督へのインタビューを観ることができます。

これらで、今作や、『ヘレディタリー/継承』、映画づくりへの監督のこだわりを垣間見ることができます。

 

『ミッドサマー』では、恋愛関係の終焉、別れについての映画をつくりたかったとのこと。

監督自身が恋人と破局を迎えている最中に作った映画だそう。

家族や恋人を社会の縮図として描くのではなく、あくまでパーソナルなものとしてストーリーを展開することにこだわったとのことから、上で書いた登場人物のリアリティや嫌でも共感せざるを得ない感情表現も納得です。

 

また、音へのこだわりもいっそ偏執的なほどに強いアスター監督。

インタビューで、「音で驚かせるホラーは嫌だ」と監督本人が言う通り、ハリウッドでよくあるような、緊張感を高めるだけ高めて、来るぞ…来るぞ……と身構えてからの、バーン!!!ギャー!!!!!……といったシーンは、『ミッドサマー』では全くありません。

電話の着信音、サイレンのような何か、飲み物をかき混ぜる音、食卓に並べられた料理に虫がたかる音……『ミッドサマー』では、こういった何気ない日常の音がやけに大きく流されています。

これも、うつ病など精神を病んだ時に音に過敏になる時の状態に非常に似ているそうです

しかも、アッテストゥパンのシーンなど見た目に派手なシーンは、驚くほどに小さく、軽い音しか流さないのです

音で驚かせるわけではないのに、どこか不安にさせるような音がずっと聞こえている。しかも、驚かせることをしない分、不安な音に終わりがない。

それも、アリ・アスター監督のこだわりによる『ミッドサマー』の怖さでしょう。

 

ストーリーも、リアリティのある登場人物はもちろん、舞台設定もしっかりと作りこまれています。

インタビューによれば、スウェーデンの奥地で実際に取材を入念に行い、その上で、ドイツ、イギリスなど周辺の国の伝承も取り入れオリジナルの風習、宗教として作り上げたとか。

 

また、「見終わってから後を引くような映画にしたかった」とも語っています。

ダニーの視点で見れば救済の物語だったとしても、本当にそれ正しいの?という疑問がずっと残ったり、違う立場から見ればまったく違う見方ができたりと、鑑賞中の強烈な不快感を何度も反芻できるように作られています。

それらの強いこだわりによって、他にはない“まったく新しいホラー”が作り上げられています。

 

まとめ

ここまで、SNSで話題沸騰中の『ミッドサマー』の怖さについてをまとめてみました。

ですが、ここに書いただけではなく、要所要所で現れる妹の幻覚などもっと様々な怖い要素があるかも知れません。

もともとはもっと長い映画になる予定だったそうで、現在そのディレクターズカット版(なんと170分!)の上映がもしかしたら決まるかも?という噂もあります。

公式サイトにも劇中に登場するルーン文字の解説など様々な情報が掲載されているので、いろいろな情報を仕入れてから、二度目、三度目のホルガ探訪を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

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